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移民襲撃はなぜおこったか:貧困と政府に対する不信

今回は、高級住宅地と隣接するインフォーマル住宅地区について書こうとしていたのだが、全国新聞のIndependent News & Media社により、移民襲撃事件を分析する数ページに渡る付録記事(2008年6月17日、タイトル「Never Again!」)で、現在の南アに蔓延する貧困問題について分りやすいレポートが掲載されたので、ここにまとめておこうと思う。高級住宅地とインフォーマル住宅地に関するレポートは次回の予定!

Flames of Hate - Times, SA

南アの新聞写真家が撮影したゼノフォビア襲撃の模様(Times Multimedia)

Xenophobia(ゼノフォビア、外国人嫌悪)として世界中の新聞・テレビのニュースとなった今回の移民襲撃事件だが、実際には南ア人による南ア人を対象とした襲撃も存在し、襲撃により死亡した65人の中でも21人が南ア人なのである。ズールー語話者による、ツォンガ語話者、ヴェンダ語話者、ペディ語話者をねらった襲撃がひとつの例であるが、以前にも書いたように、この襲撃事件については、ゼノフォビアという言葉以上に注目されねばならない南アの社会問題・貧困が深く関係していると思われる。実際、南アには低所得住宅地から高級住宅地にいたるまで、あらゆる地区に全世界からの移民が暮らしているが、襲撃が起きたのはとくに、インフォーマル住宅地であり、ここには、低所得者向け住宅地に家を確保できない、さらに低所得の住民が暮らす。今回の移民襲撃を調査分析した南アフリカ政府の人文科学研究委員会(Human Science Research Council:HSRC)によれば、襲撃が起きた地区の住民を取り巻く環境には、以下のような特徴があった。

1.政府による公共事業運営能力の低さに対し、住民のあいだで不満がつのっている

2.政府による移民政策は、不正、汚職にまみれ、統制が利かない状態にあると住民が見なしている

3.住宅不足、また、若者(16歳~30歳)の間の失業率の高さが深刻な問題となっている

4.最近の燃料価格、食料品価格の高騰により、住民が苦境に立たされている

1.政府による公共事業・サービス運営能力に対する不信

HSRCによれば、今回襲撃が起きた地区は、公共事業・サービス運営能力の低さに対する抗議暴動がここ数年の間に起きた地区である。公共事業・サービスとは、住宅地・住宅整備、住宅配分、水道・電気・下水整備、ゴミ回収など、都市住民が生活するうえで必須のものだが、インフォーマル住宅地ではこれらのサービスが支給されなかったり、質が低かったりする。水道水を隣人と共有せねばならなかったり、35世帯が1つのトイレを共有している地区もある。インフォーマル住宅地であれば、そんなサービスが無くても当たり前、という感じもするかもしれないが、インフォーマルといっても1980年代から居住がはじまり、現在は数万人が住むという巨大なインフォーマル住宅地もある。更に、政府自身が、これらの住宅地住民に、適切な公共サービスの配給や合法な住宅の提供を、民主化以来ずっと約束している。民主化から10年以上たち、近年は中高所得者が好景気の恩恵を受ける南アで、なぜ我々の住宅地には何の改善ももたらさられないのかと、住民の間で不満が募るのである。また、ただでさえ公共サービスが不足しているインフォーマル住宅地区で、次々と流入する外国人移民や国内からの出稼ぎ移民とサービスを共有しなければならない南ア住民が、移民に対する嫌悪をいだく状況は理解できる。

2.移民政策に対する不信

アフリカ大陸の経済大国のひとつである南アには、ビジネス・就職・就学のチャンスを求めてやってくる移民が世界各国から大勢やってくる。南ア国家公務員は、一般的に比較的低賃金であるし、マネージメント力が弱く、職員トレーニングレベルも低いようだが、特に内務省の状況は南ア政府自身から非難されるほどマネージメントがメチャクチャになっているらしいのだが、移民に関しては、賄賂で滞在ビザやパーミットを発行したり、外国移民であっても南ア人向けの住宅があてがわれたりといったケースが出ている。また、ごく最近まで、南ア政府は現在のジンバブエ状況について基本的に不干渉であり、ジンバブエでは何も悪いことは起きていないがごとくの態度を南ア国民に示していたのだが、その一方で、難を逃れて流入するジンバブエ人移民が近所にどんどん住み始めるという現状を目の当たりにしたインフォーマル住宅地区住民が、政府の移民政策に混乱した印象と不信をいだくのは当然である。また、南ア政府がジンバブエはOKだといっているのに、なぜジンバブエ人たちは我々の住まいに侵入してくるのか、ジンバブエに帰れ!という気持ちが南ア住民にあるに違いない。

3.住宅不足、若者の失業

低所得者向け住宅が極度に不足している南アである。民主化後の1994年以来、住宅政策により200万人以上が住宅を獲得することができたが、まだ220万件の住宅申請が未処理であり、2005/6のデータでは、南ア国内の1245万世帯のうち、320万世帯がインフォーマル住宅に住んでいるという。こうしたインフォーマル住宅地区では、失業率が異常に高く、80%~90%は職が無く、その中には20~30代の若者も多くいる。こうしたところへ移民が流入しているのだが、移民もまた若者世代が多く、若者と若者のあいだの衝突という性格も今回の襲撃事件には見られるという。日ごろから失業率が高い地区に移民が流入すれば仕事のとりあいになるのは当然である。彼らの仕事とは、日雇いの低賃金職がたまに見つかるといった状況なのだが、南ア人雇用者は、より低い給料で雇うことができる外国移民を優先して雇用する傾向があるため(外国移民は通常より低いレートでも働く)、移民は生活を脅かす存在として、南ア住民に見なされてもおかしくないのである。

4.燃料価格、食料品価格の高騰

最近の燃料・食糧価格のインフレは、所得の高低を問わずに南アの全世帯に影響を与えているが、インフレ前でもほとんどの収入を食費や交通費にあててきた低所得者にとって大打撃である。低所得者の中でも年金くらいしか収入源の無い老人たちは、インフレによって多大な打撃を受けている。下表はプレトリア市の低所得者向け住宅地に住む老人たちの月の出費である。食糧雑貨費は夫婦が400ラント(5364円)、5人の孫を育てる独身女性が300ラント(4023円)費やしているが、この額ではほんとうに基本的な物(主食、肉、野菜、洗剤など)を必要最低限の量しか買えない。とくに、孫を育てる女性に関しては、2人の孫の教育費(1年にR580)も支払わなくてはならない。南アは物価が比較的高く、日本と同じくらいの値段かもっと高値で販売される日用品も多いからである。そして、この表にある老人たちは、きちんとした公式住宅地に住んでいてこの状況であり、これがインフォーマル住宅住民となれば、年金ほどの一定収入もなく、生活はもっと苦しい状況に陥る可能性がある。

低所得老人の月の出費(Pretoria News 2008年6月17日)

R=南アフリカラント。2008年6月22日の交換レート:1ラント=13.4円

夫婦 独身女性(70歳)。孫5人を育てる。
収入源:夫の年金R2000 収入源:年金R940、くず鉄・空瓶収集による収入
食糧雑貨:R400ディーゼル:R400電気:R200

市への支払い:R200~R400

自動車保険 R400

医薬品 R500

食糧雑貨:R300牛乳とパン:R50電気:R100

教会の10分の1税:R100

合計 R2300 合計 R550

本日6月23日のPretoria Newsは、「プレトリア市郊外のインフォーマル住宅地住民が『政府が住宅を供給しないなら、土地を占拠する』と宣言を出したと報告。現在南アは冬である。南ア各地の冬はけっこう厳しく、こちらにやって来た外国人がたいてい驚く。分厚いコートや毛布や強いヒーターが必要なのである。だから、インフォーマル住宅地の掘っ立て小屋で過ごす冬はものすごく厳しいことが想像できる。また、このような寒さがある南アは、温かい国々でみられるように、安い食べ物がたくさんあるぞ!といった雰囲気ではなく、なんでもキッチリお金を出して買わなくてはいけない、それもあまり安く無い、という雰囲気がある。この上さらに、仕事が無い、収入が無い、家が無い、物価は上がる、といった状況は耐え難い。さらに、ストレスレベルをあげる原因のひとつとして、掘っ立て小屋住民の前をゆうゆうと高級車で通り過ぎる中~高所得者たちがいるだろう。高所得者の中には、120万ラント(1600万円)が毎月の出費だと言う人もいて私はびっくりしたが、次回は、高級住宅街の間の野原にあるインフォーマル住宅のようすと、それと対照的な高所得者の生活について書いてみたい。

移民襲撃に加わる南ア青年。イーストラント地区のインフォーマル住宅地。

移民襲撃に加わる南ア青年。イーストラント地区のインフォーマル住宅地。

(Pretoria News 2008年6月17日)

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