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高級住宅と掘っ立て小屋:南ア貧富の差

南アフリカは貧富の差が激しい国である。アパルトヘイト時代には、黒人や黄色人種、混血やインド人など、有色人種は職種が限られ、給与も白人より低く設定されていたから、人種を壁にして貧富の差が存在した。これはジンバブエでも同じ状況で、有色人種はいくら努力しても裕福になれないような国家システムだった(南アには、白人の中にも貧しい住民がけっこういるが)。1994年の民主化後、とりわけ有色人種の人々は、平等な経済チャンスが与えられると共に、彼らの家計と生活が改善することを期待したのだが、実際には、民主化後はますます貧富差が激しくなっているという。経済発展が著しいとされる南アフリカだが、増加する都市への人口流入や毎年の学校卒業者の数を考慮すると、就職先の数はかなり不足しており、失業率はたいへん高い。あるデータでは失業率が24.2%(CIA: World Factbook)となっているが、50%以上の数値を出す情報もある(Business Day: 9May08)。とくに移民襲撃が起きたインフォーマル住宅地では、失業率が80~90%とも言われ、南アフリカの失業問題の深刻さがうかがえる(Pretoria News 2008年6月17日)。経済発展の恩恵を受けているのは中~高所得の有職者だけで、失業者や低い給与を得ている者は、インフレが進むにつれ、生活は苦しくなるばかりである。激しい『貧富の差』を目の当たりにすることがほとんど無い現在の日本では、貧富差とはどのように存在し、そのような差のある社会でどのような生活が営まれているかピンと来ないかもしれない。私は南アにて、ジンバブエよりも貧富差がはげしい南アに驚いた。我が家の近くにあるインフォーマル住宅地の住民は、低所得者の中でもさらに貧しい住民であるが、彼らの生活状況は以下のように見て取れる。

住まい環境

我が家族は、プレトリア市郊外東の方にある、最近開発が進められている比較的新しい地区にある。市の東部は「プレトリア・イースト」と呼ばれ、このイーストには高級住宅街がとてもたくさんある。南アフリカは治安が悪いため、Security Estateといって、これは、大きな敷地をぐるっと壁(電気鉄条網つき)で囲み、その中にアパートや家を何軒も建築し、壁の中に入るには、警備員とセキュリティ・チェックのある門を通過する必要がある。規模は数軒・数棟の家屋を囲んだ小さなものから、大きな敷地付の家を数百軒かこんでしまう巨大なものまで、様々である。我が家の向かいのEstateはかなり高級の部類に入っていて、家は1億とか2億円のものがたくさんあり、敷地は公園みたいに大きく、馬を飼っている家主のために乗馬道が整備され、さらにヘリコプターの離陸・着陸・格納設備を備えた家まである。残念ながら、我が家は「高級住宅街の中にある、中所得者向けアパート」をたくさん囲んだSecurity Estateの、アパートのひとつに住んでいる。”Security Estate”の割に治安が悪く、昨年ここに住み始めてからすぐに、お隣さん数件に泥棒が入ったくらいノンキなSecurityレベルである。また、これがすごい欠陥住宅で、昨年我が家族が入居したときには新築だったのに、壁から水が漏れるわ、電気にショートが起きるわ、シャワーのホースが切れるわ、、、もっと色々書きたいのだが、本題にもどりましょう。もともと、この地区はプレトリア・イーストの端にあり、以前は農場が広がっていたところを、住宅地用に開発しているのだが、我が家のあるアパート群の両側に、大きな空き地が広がっている。昨年5月にここに引っ越したとき、車で空き地の横を通りかかると、高く茂った枯れ草の間にチラホラと、ビニールや木ぎれで作った小さな掘っ立て小屋がいくつか見えた。引越しを手伝ってくれていた夫の姉が「あなた達の住まいの隣にスクォッターがいるよー」と言った。南アで結婚し、ここに長く住む姉にとて、スクォッターは珍しくない存在であろう。しかしジンバブエからやって来た私と夫は驚いた。南アはとても豊かな国だと聞いていたのに、家の無い人々が大勢いることを知った。ジンバブエでは、景気の良かった80~90年代には、インフォーマル住宅とかスクォッターは少なかったものである。南アはよほど住宅不足なのだろうとか、仕事が無いのだろうとか夫と話し合ったが、掘っ立て小屋で住む人たちの隣で、安アパートとは言えど、一応きちんとした家に住むことができる私は、なんだか居心地がわるい気持ちがした。引越しした5月は、冬に入ったところでそれからどんどん寒くなる季節である。南アの冬は、乾燥して冷たい空気が体に染みて「しばれるー」ので、冬には分厚いコートを羽織っている人たちがほとんどだ。掘っ立て小屋ではかなり体にこたえるだろう。空き地には電気は通っていないから、料理はそこら辺から刈ってきた木を薪にして使っている。水道ももちろん無いから、近くの水道管の破裂した部分から水を汲んで使っている。

我が家の隣のインフォーマル住宅。手前がアパート群で、奥の空き地に点々と小さく見えるのがインフォーマル住宅。

仕事

そもそも、なぜこの空き地にインフォーマル住宅ができたのか。今年起きた移民襲撃の舞台となったインフォーマル住宅地は、低所得者住宅地に隣接したものも多かった。これらのインフォーマル住宅地は、低所得住宅地に住むことが出来ないほど低所得の住民の住まいである。一方、我が家の両側の空き地にあるインフォーマル住宅地は、高級住宅街のど真ん中にあり、人々は家が無いからここに住み始めたというのではなく、仕事を求めてスクォッターになったと推測される。この地区は新興住宅が次々に建設されている地区だから、工事現場での日雇い仕事がある。また、高所得者がたくさん住む地区だから、庭師や家屋の整備(掃除、ペンキ塗り、庭つくりなど)の仕事がある。どれも低賃金の仕事で、毎日仕事にありつく保証は無いのだが、失業して家にいるよりはましだろう。空き地の前の道路沿いには、毎日朝から夕方まで、20~30代と思われる男性たちがずらーっと座ったり立ったりしている。こうして待っていると、仕事をオファーする雇い主がたまに来るようだ。それにしても、賃金はかなり低いだろうと思う。日雇い仕事はもともとが低賃金である上、インフォーマル住宅の横にずらりと並んで一日中仕事を待つ求職者たちをみれば、雇用主の中には、さらに低い値段を提示する者がいるだろう。インフォーマルだから、「最低賃金」の概念など、あるわけがない。

増加する住民

息子が生まれて半年以上たち、私も頻繁に外出できるようになった頃には、空き地のインフォーマル住宅の数が目に見えて増加した。以前は草木の陰からチラッホラッとしか見えなかった掘っ立て小屋が、あそこにもここにも目だってくるようになった。道路際にたって仕事を待つ男たちの数が増えた。昨年中旬には、数人~10数人といった感じだったのだが、今は多いときでは100人近くいるようだ。さらに、以前は住民のほとんどが男性であったと思われるのだが、近頃は女性住民をしばしば見る。女性は仕事を求めて道路際に立つ事は無く、薪にする木を頭の上に積んだり押し車に乗せて、自分が住む空き地へと運んでいるのをしばしば見る。子供が大人と一緒にいるのを見たこともあるし、「家族連れができたね、、、」と、日々増加するインフォーマル住宅住民を確認する私と夫である。

ハード・ライフ vs 快適生活

インフォーマル住宅の真向かいには大きなショッピングモールがあって、近辺の高級住宅地から買い物客が毎日たくさん訪れる。モールには高価な衣類や家具のほか、スーパーマーケットも入っている。インフォーマル住宅から簡単に歩いていけるスーパーはこのモール内のものだから、インフォーマル住宅住民は、高所得者が数百~数千ラントをショッピングカートを山盛りにしながら瞬く間に使うのを見ながら、スーパーで必要最低限の買い物をしている。我が家の家計は大抵火の車だから大した買い物もしないのだが、彼らの買う物と比べればやはりたくさん買っている。彼らがモールから出て、空き地の掘っ立て小屋に帰っていくのを見たり、モールのすぐそばの水道管が破裂した部分で、彼らがさかんに水をくんでいたりするのを見ると、以前は「あー、こんなのダメだよね、、、」と心を痛めていたが、最近は慣れてしまってあまり何も思わなくなった。この「慣れ」が、南ア住民の間に浸透しているようで、高級車でインフォーマル住宅地の前を通り過ぎながら、彼らには目もくれない。すぐ近くに住んでいても、インフォーマル住宅地の住民と、周囲の住民の間には、越えられない大きな壁があって、お互いを「まったく別種の人間/生き物」としてみているようなものである。

インフォーマル住宅と道路を挟んであるショッピングモール(手前の大きな建物)。奥の住宅地は、ゴルフコース付のセキュリティ・エステイトで、この地区の高級住宅地のひとつ。手前に見える信号のたもとで、破裂した水道管からインフォーマル住宅住民が水を汲んでいたものだった。

立ち退きの危機

インフォーマル住宅は、政府や地主の許可なしに建設され、下水・排水設備が無いため、衛生状況が悪化するのはもちろん、所得の低い住民が犯罪に手を染めたり、土地が荒れていたり整備された道路などが無いため、追跡をかわすために犯罪者が逃げ込む格好のエリアとなる。そうなると、近所住民からは苦情があがり、警察がインフォーマル住宅に乗り込む。こうしてインフォーマル地区住民の強制立ち退きが各地で起きているが、昨年プレトリア市のとあるインフォーマル地区(これも我が家の近所だった、、、)では、警察が住民に乱暴したり、住民からお金を取り上げてしまったりして、問題になった。結局、教会関係のNGOが介入し、地区住民は立ち退きさせられても次に住む場所が無いのだからと裁判に持ち込み、地区住民は引き続き居住することができるようになった。当時、お金を取り上げられた住民は、苦労して貯めた数百ラントを取られたようだが、これは、彼らの生活費だけでなく、家族の元に送金するためのお金でもある。政府も近所住民も、だれもインフォーマル住宅地の住民のことをきちんとした人間として考えないのである。

最近は冷え込むせいか、インフォーマル住宅地付近では、山盛りの木の枝をワッセワッセと運ぶ女性たちを頻繁に見る。しかし、いくら火をたいても、掘っ立て小屋では寒いものは寒いし、そのうち木も周囲からなくなってしまうだろう。都市の住宅不足・仕事不足を解消するためにはどうしたらいいのかなと思う。アフリカ諸国では、仕事不足が深刻な課題だ。いくらよい教育制度を設けても、仕事が少なければみな海外に出てしまう。南アでも、ジンバブエでも、それが問題になっている。インフォーマル住宅地の住民は、国内外から出稼ぎのようにして来ている者が多いようだが、彼らに技術トレーニングを与えても、就職できるチャンスは少ないだろう。このように、経済的に最低レベルで生活する者がいるすぐそばで、高級車に乗って、数億円の家に暮らす住民がいる。南アには、日本人が見てもビックリするような高級車が「かなり」たくさん走っている。高級車の数の割合は、日本やその他先進国と比べても、南アはかなり高いのではないかと思う。なんでこんなに金持ちがいるのかと思うと同時に、なんでこんなに貧乏人もいるのかと思う。そして、互いを「まったく別の生き物」として見ることが、犯罪、殺人の多い社会をつくった背景にあるのではないかと思う。

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