6月7日に放映された『地球アゴラで世界一周 10HOURS』、見ていただけましたか?わたしと登場したおばあちゃんたちが、南アフリカの片田舎で活躍する『ヴァケグラヴァケグラ』チーム。番組で使用されたおばあちゃんたちの練習風景 の撮影の模様をこちらで紹介します!
5月10日の記事で報告したように、NHKBSの地球アゴラさんの依頼にて、同月7~8日にかけて、南アフリカの片田舎で活躍するおばあちゃんサッカーチームの撮影へと出かけた。おばあちゃんサッカーチームの名前は「ヴァケグラ・ヴァケグラ(Vakegula Vakegula)」、現地の言葉で「おばあちゃん、おばあちゃん」という意味。
南アフリカ(Republic of South Africa)、リンポポ(Limpopo)州、ザニーン地域のおばあちゃんサッカーチーム(写真:櫻田)
私の母は長年老人ホームにて勤めている。母を通して毎日のようにホームやホーム近郊のご老人について話を聞いていた。一人で寂しく暮らしているご老人、自分で動けないのでヘルパーが必要なご老人、数々の病気を一度に抱え込んで大量の薬を毎日飲まねばならないご老人、引退してすることが無くなった途端に痴呆になった老人など。愉快でおもしろいご老人の話もあるのだが、はーっ年をとるとタイヘンだなと憂鬱になる話が多かった。特に高齢で健康を害すると生活が一段とたいへんになるのは、私の祖父母を見ていて実感したことだ。ある祖父は亡くなる直前まで比較的健康体だったため、自宅でひとり暮らしであった。しかしある祖母はいつも病気がちで、亡くなる10年くらい前から入退院を繰り返し、毎日大量の薬を飲んでいたものだ。南アフリカやジンバブエにおいても、高齢者が数々の病気を抱え込み、たびたび病院へ行かねばならない状況は同じである。失業率が高く政府の年金制度も未整備であるアフリカでは、高齢者の生活の苦しさは倍増である。特に黒人低所得老人は引退年齢に達する以前から仕事が無く、現金収入が圧倒的に少ない。成人した子供に補助を頼もうとしても、20~30代の子供が失業中ということは珍しくない。さらにエイズ感染率の高いこの地域では、子供夫婦がエイズで亡くなり、残った孫たちの面倒を祖父母が面倒を見なくてはいけないという状況に陥ることも珍しくないのだ。

地元新聞City Press(2008年7月6日)に掲載されたおばあちゃんチームの写真
こんな中、ヴァケグラ・チームの活躍について地元新聞で読んだとき、私はたいへん感動した。ヴァケグラ・チーム創始者で地域社会活動家のベカさん(ベカさんの経歴は下記事を参考) によれば、高齢女性のためにサッカーチームを設立した理由は、自宅で孫の面倒を見るくらいしかすることの無い地域のおばあちゃん達が、運動不足、生活習慣病、孤独に陥る傾向が高かったためだ。サッカーを始めた後、ヴァケグラのおばあちゃん達は高血圧や糖尿病が解消され、今は毎日の生活とサッカーを生き生きと楽しんでいるとことだ。チームメンバーは45歳から最高齢が83歳。83歳!?と感動を超えて思わずギョッとしてしまったが、サッカーで本当に元気になったおばあちゃん達がアフリカにいるとは、スゴイ!とわくわくしたものである。新聞に掲載された写真には、田舎町のおばあちゃんたちがスカートをはいて、こちらの女性がよくするように頭にスカーフをまいて、埃にまみれてサッカーをしている。「うーん、これはちょっと信じられない映像だが、ご老人が元気になるとは素晴らしい話だ!」と言うわけで、『Go! Go! おばあちゃんサッカーチーム!』(2008年7月23日) にて報告させていただくに至ったのである。
おばあちゃんサッカーチームの創始者ベカ・ンツァンウィシ女史

ベカ・ンツァンウィシ女史。写真:Limpopo247.Net
ヴァケグラ・チームを創始したのはリンポポ(Limpopo)州の地域社会活動家のベカ・ンツァンウィシ(Beka Ntsanwisi)女史。彼女は結腸癌と闘いながら、リンポポ州農村地域の貧困・エイズ・幼児/女性虐待に苦しむ住民の生活を補助するため数々のプロジェクトを展開しており、リンポポ州のマザー・テレサとして親しまれている。現在リンポポ州のSABCラジオ(南アフリカ国営放送局) にてラジオDJとして活躍し、自らの給料を投げ打って日々プロジェクトの活性化につとめている。彼女の献身的な地域社会活動は南アフリカ政府によって大きく認知されており、2008年には南アフリカ政府から権威あるバオバブ勲章を受章し、先日5月に行われた大統領就任式にも公式招待されている。ベカさんの活躍についてはこちらをご覧ください。
そして今年の4月、このヴァケグラおばあちゃんチームの記事に関心を寄せたNHKBSの地球アゴラさんから連絡を頂き、チームの撮影と、来たる6月7日BS特番中でのわたし家族出演の依頼をいただいた。ヴァケグラ・チームに出会える絶好のチャンス!というわけで、コーディネーターの方々と共に5月7~8日、ヴァケグラ・チームの撮影へ向かったのである。チームが活躍するのはリンポポ(Limpopo)州のザニーン(Tzaneen)という地域(下の地図を参照)。ツワネ市(プレトリア市) からは360kmほどの道のりである。まずリンポポ州都のポロクワネ市まで北東へ幹線道路を走る。南アフリカの道路はたいへん整備が行き届いているので、自動車での移動はとても快適である。ただ、幹線道路沿いにたくさん料金徴収所があり、度々支払いが生じ、長距離の旅では数千円を徴収されるため、無料で快適!と言う訳にはいかない。ポロクワネ市ではヴァケグラ・チーム創始者ベカさんをピックアップ。ベカさんはポロクワネ市のSABC社(南アフリカ国営放送局)でツォンガ(Tsonga)語ラジオ番組のひとつを担当している。こちらの地域では、他にヴェンダ(Venda)語、ストゥ(Sotho)語など、数民族語が話されるため、ラジオ番組も数言語で制作される。ちなみに南アフリカの公用語は11あるのだが、英語を含めて公用語が3つだったジンバブエから来た私は新鮮な驚きを感じた。ただし、他のアフリカ諸国では南アフリカ以上の多言語使用は一般的である。

ポロクワネ市はツワネ市のあるハウテン(Gauteng)州と比べると山や緑がより多く見られるが、全体的には、日本と比べればうんと乾燥し、低木林が広がるミオンボ的な風景である。このポロクワネ市から東へザニーンへと向かい、当地には一時間ほどで到着。ザニーンにいたる道路も整備が行き届いて快適な舗装道路。ザニーン地域の自然に関しては全く知識が無く、ポロクワネ市と似た感じであろうと考えていたのだが、ザニーン地域では気候が亜熱帯に豹変!日本を思わせる緑の山々、道なりにうっそうと生い茂る草木、そしてバナナ園!日本を離れてはや5年、特に南アフリカでは乾いたツワネ市に2年暮らし、その乾燥した黄土色の風景に飽き飽きしていた私は、緑に囲まれたザニーン地域に一目ぼれであった。バナナ園が広がっていることからもわかるように、ザニーンは雨と暖かい気候を利用した果物の産地。冬に近づいた現在は、リンゴ、オレンジ、グレープフルーツ、みかん、アボカドなど、多種の新鮮な果物がふんだんに収穫販売されている。
ザニーンの町は、ベカさん曰く「リンポポ州で最もきれい(清潔)な町」として認められているそうだ。リンポポ観光・自然公園委員会(Limpopo Tourism and Parks Board)によれば、町の人口は約3万人、町周辺の人口を含めると約65万人と、小ぢんまりした小ぎれいな町で、住み心地がよさそうである。息子と緑が好きな夫も連れてまた遊びに来たいなと思いつつ、町から10~15kmほど離れた住宅地ンコワンコワ(Nkowankowa)へ。ンコワンコワは、低~中所得黒人住民が3万人以上暮らす大きな住宅地。家々が立ち並ぶ様子や小さな商店街がにぎわう様子は、私がジンバブエで調査していた都市部低所得者向け住宅地(独立前は黒人専用の住宅地)と、似通っていてたいへん懐かしい思いがした。南アフリカの治安の悪さといつも息子が一緒にいるのとで、南アでは低所得者向け住宅地をまだ訪れていない。このンコワンコワには住民のための大きなスポーツ・スタジアムがあって、内部には立派なグランドが整備されている。スタジアム近くの地元住民の話によれば、1994年の民主化後に建設されたものである。

スカートとスカーフで練習!ヴァケグラ・チーム。(写真:櫻田)
ヴァケグラ・チームはこのスタジアム敷地内のサッカーの練習グランドか、スタジアム近くの空き地にて毎週練習を行っている。チームは50歳以上と50歳以下のメンバーの2つに分かれていて、現在のところ80人以上のメンバーがいる。今回フォーカスしたのは最年長メンバーが所属する50歳以上のグループ。撮影一日目(7日)は、我々が夕刻に現地到着したため、本番撮影は翌日に持ち越し。また明日もグランドに来てくれますか?という希望に快く承諾してくれたおばあちゃん達は、我々の到着を何時間も待って疲れ気味の様子であったにもかからわず、元気な練習風景を見せてくれた。メンバーには60~70代が多く、最高齢は83歳。プレーはゆっくり、のんびりするのかと思っていた私だが、意外や意外!テキパキと走るし、ドリブルするし、パスをするし。私より上手い!(なんてこったい) と驚いた運動音痴の私でありました、、、。
さて翌朝は9時にンコワンコワ・スタジアムにてヴァケグラチーム集合の約束。アフリカにおいては集合時間というのはしばしば守られず、大抵の約束やイベントが1~3時間(以上!)遅れて始まるのが一般的である、ということを熟知していた我々であったが、8時半過ぎにスタジアムに到着すると、すでにおばあちゃんメンバーの3分の1ほどが集まっていて、9時にはほとんどのメンバーが集合完了、撮影開始!という、アフリカではほぼあり得ない、素晴らしく時間通りのスケジュールにて撮影が開始されたのであった。撮影といっても私がホームビデオでヴァケグラ・チームの練習風景を撮るのであって、さほど難しいことは無い。ヴァケグラチームは、普段はウォーミングアップ、パス練習などから始めるようだが、今回は撮影のためにか、さっそく練習試合を展開してくれた。

ヴァケグラおばあちゃんチーム、練習風景(写真:櫻田)

孫を背負ってゴールキーパー!(写真:櫻田)
練習試合では皆さん元気に走る走る!60代、70代だというのに平気でボールを追いかけ、大きなかけ声をかけ合いながらゲームは賑やかに展開している。おっとゴールキーパーのおばあちゃんの孫(ひ孫?)が、おばあちゃんを慕って泣き止まないという訳で、最終的に赤ちゃんを背中にしょったまま、ゴールを防備。膝の関節炎を患っているという60代のおばあちゃんも、サポーターをして元気に走り回っている。最高齢83歳のおばあちゃんは、ゲーム開始後10分ほどでさすがに疲れた様子であったが、敵がやってくるとしっかりディフェンスにまわっている!何しろみんな楽しそうだ。ワイワイと歓声をあげながら、汗を流して30分以上のゲームプレーであった。
ゲームの前後、おばあちゃん達にインタビュー。なぜサッカーを続けるのかという質問には、「健康になって、病院の薬を飲む必要が無くなったから」という意見が圧倒的。糖分・脂肪分の多い食事を取る傾向の高いアフリカでは、高齢になるに従い高血圧、糖尿病、肥満、関節炎など、生活習慣病を患うことがしばしばだ。お金があれば病院へ行き、薬に依存した老後生活となるかもしれないが、こちらのおばあちゃん達には、しょっちゅう病院へ通ったり薬を買ったりするお金が、そもそも無い。医療費はいつも彼女たちの頭痛の種なのである。そこでサッカーを始めてみると、わずらっていた生活習慣病や持病が改善されていき、薬が必要で無くなった、体が良く動くようになった、そういった点が最も嬉しい!という。おばあちゃんチームが練習する周辺にいた、数人の20~30代の若い男女は、チームのコーチとして、観客としてチームを見守っていたが、彼らに高齢女性がサッカーをする点をどう思うかと尋ねると、おばあちゃん達の健康改善・体力保持にもってこいなので、とても良いことだ、ぜひつづけて欲しいということで、近所住民からの支持も高いことが分った。
サッカーは健康によろし!左から、61歳のマラドーナさん(ニックネーム)、チーム最高齢83歳のノラさん、61歳のマーシーさん。マーシーさんは高血圧、肥満、糖尿病などを患い自分で動くこともままならなかったが、サッカーを始めてから家事を楽にこなせるようになって幸せ!とのこと。(写真:櫻田)
あるおばあちゃんは、過去の交通事故で首と背中が腫れ上がり、いつも薬が必要だったのが、サッカーを始めてから痛みが無くなり、薬なしで生活できるようになったという。杖をついてでないと歩けなかったおばあちゃんも、今は杖なしで歩き、サッカーをプレーするまでになっている。高血圧や肥満のためにほとんど動けなかったおばあちゃんは、家事が楽にできるまでに改善したという。また、ヴァケグラ・チームのおばあちゃん達の元気の秘訣としては、サッカーをとおして毎週チームメンバーと会い、サッカー、おしゃべり、情報交換を楽しむことができる点ではないだろうか。自宅で孤独になりがち・運動不足になりがちな高齢女性たちを外へ引き出したベカさんのサッカー・プロジェクト。薬からの解放!孤独からの解放!改善した運動能力!これらの点は、先進国の高齢者も最も求めているものではないだろうか。
撮影後のヴァケグラおばあちゃんチーム。みんなで「フィーファー(FIFA)!」(写真:櫻田)
今後の夢は?という質問には、「2010年に南アフリカで行われるワールドカップを見に行きたい!」「南アフリカ代表チームと試合をしたい!」「日本のおばあちゃんチームと対戦したい!」などといった果敢で積極的な意見が続々!ヴァケグラおばあちゃんチーム、今後も末長くがんばってください!私もいつも応援しています!

- おばあちゃんチームとアユミ。