• アフリカからストリーム!

Category Archives: 移民襲撃事件の経過

さて、ディストリクト9(District 9)見てきたよー!ハルカが生後1ヶ月だし、レンはいたずら盛りだから映画館なんてとても連れて行けないし(ディストリクト9は16歳以下はダメだし)、「ディストリクト9見に行きたいから、ちょっと子供2人預かってくれる?」なあんて友達に頼むのも気が引けるわ、と思ってなかなか見に行く機会が無かった。しかし!先日(10月2日)にディストリクト9の記事をHi from Africaにアップした後ちょっと調べたら、近所の巨大ショッピングモールのドライブインにて、先週末から今週にかけて1週間だけ、ディストリクト9が放映されているではないか!ああ、これは神さまが私に、ぜひ見に行きなさいと言ってくれたのだワ(涙)というわけで、映画は大好きだが映画館は嫌い(、、、理由はいろいろあるらしい)な夫に、「ドライブインだったらいいでしょ?レンも(ほんとはダメだけど)隠れて行けるし、ハルカも車で眠ってればいいんだし」と説得して、6日の夜に出かけました♪

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メンリンパークの屋上ドライブイン。ちょっと見にくいけれど、大きなスクリーンの背景に見えるのはプレトリア市の夜景。

ドライブインでは夜9時半からディストリクト9が始まるとあったのに、我々が到着した9時15分の時点で、すでに映画が15分くらい始まっていたようだ。なんてこったい!初めの部分を逃してしまって不満だったけれど、映画の展開がとても速くて、すぐに文句を言うのも忘れて家族全員映画にのめりこんでしまった(ハルカは寝ていたが)。話の内容は、28年前、ヨハネスブルク市上空にエイリアンが巨大な宇宙船でやってきて、人間たちを驚かせた。どうやら宇宙船に問題がおきて動けなくなり、エイリアンたちは地球で難民となった。エイリアンは人間から隔離されたディストリクト9に住まわされ、地区は貧しく犯罪に満ちたスラムとなり、南ア政府がエイリアン難民をディストリクト10に強制移住を図る。主人公のヴィーカスは、政府に移住プロジェクトの委託を受けた軍事関連企業の元、プロジェクトリーダーとしてD9に入る。そしてあるエイリアンの小屋で、得たいの知れない液体を浴び、エイリアンと企業の秘密にどんどんと巻き込まれていくことになる、、、!ストーリー展開は推測しやすそうで、実はなかなか分からないというサスペンスに満ちていて、最後の最後までとても楽しめました。以下、私の感想です。

  • 話の展開が速く、主人公は期待を裏切らない正統派の正義の味方のキャラ、ストーリはシンプルなのでおもしろくて分かりやすい。また、シリアスになりすぎず、コミカルでユーモアのあふれる展開になっている。エイリアンやエイリアンの武器、宇宙船の特殊撮影など、エンターテイメント性も高い。
  • エイリアンは2008年の移民襲撃事件、ディストリクト9はケープタウンのディストリクト6、スラムは南ア各地に見られるインフォーマル住宅地、エイリアン隔離はアパルトヘイト、など南アの社会事情を連想させる点が多い。そのため、南ア事情を知っている人たちにはまた格段におもしろいと思う。
  • スラムというのが、ほんとにすごいスラムの様相を示していて、あーすごいなーと思ってみていたが、映画の中ではここにエイリアンが住んでいても、実際には南アフリカ住民が毎日暮らしているわけだし、移民襲撃事件の時やデモがあったときは警察ヘリが飛び交ったり重装備警察と住民が打ち合ったりと、ディストリクト9のアクション顔負けのシーンが実際に展開したのだから、やはりすごい社会問題だ。撮影が行われたインフォーマル住宅地の住民は、一部は撮影に対して好意的(撮影側から支払いがあったから)、一部は搾取されたと感じているとのこと。下のリンク記事を参照。
  • ナイジェリア人がディストリクト9でエイリアン相手に商売(商店、武器売買、売春など)をするギャングとして描かれていて、ギャングリーダー(その名もオバサンジョ)がエイリアンパワー獲得のエイリアンの肉を食べるという話は、ちょっとステレオタイプされすぎかと思った。ビジネス運を高めるために人間、特に子供の肉や内臓を魔術に使うのは、南部アフリカ諸国では実際にある。映画の中ではナイジェリア人のみがギャングであったり人の肉を食べたりするように描かれているが、南アでは南ア人ギャングや人肉取引が多いのが事実だ。こんなに悪く描かれてしまったナイジェリア人は当然ハッピーでない。下のリンクを参照。

モールの屋上のドライブイン、流れ星を背景に展開した南アフリカのエイリアンムービーは格別でした。アメリカではこの夏トップの大ヒット。興行売上9千万ドル(1ドル100円で換算して90億円)だそう。日本ではいつ公開されるのか分からないが、見る機会があればぜひどうぞ。以下情報リンクです。

  • 映画撮影が行われたヨハネスブルク市ソウェトにあるインフォーマル住宅地区住民の、映画に対する思い。この住宅地住民も、映画のエイリアンと同じように、政府により強制立ち退きを迫られている。guardian.co.uk より。
  • ナイジェリアはディストリクト9に否定的、、、。CBC Newsより。
  • こちら、プロットを読むとストーリーが分かりすぎてしまうので、全部読まないほうが良いかも。撮影に関する裏話は南ア事情を説明しているので面白い。ディストリクト9Wikipedia
  • 監督と主人公を演じた俳優は、2005年に外国移民問題を扱う短いドキュメンタリーを撮影した。Spy Films

メンリンパーク・ドライブイン。 星空の下、夜景を見ながらリラックスして映画を鑑賞できる。

このたびディストリクト9を見たドライブインは、メンリンパーク(Menlyn Park)という巨大ショッピングモールの屋上にあります。メンリンパークはアフリカ最大のモールだそうで、以前にブログで紹介したプレトリア市上空30メートルでパーティーを!といった様々なアトラクションがあり、こちらのドライブインも、世界で初めて屋上に設置されたとのこと。星空の下、プレトリア市の夜景を見下ろしながら、巨大スクリーンに映し出される映画を見るのは最高!レンも目をキラキラさせながら初めて見る大きな映画スクリーンを凝視(ほんと、興奮しすぎてほとんど動かなかったです)してました。値段は車一台65ラント、9アメリカドルくらい(1US$=7.3R)。水曜は半額。またたびたび出かけよう。メンリンパーク・ドライブインのサイトはこちら。

南アフリカは貧富の差が激しい国である。アパルトヘイト時代には、黒人や黄色人種、混血やインド人など、有色人種は職種が限られ、給与も白人より低く設定されていたから、人種を壁にして貧富の差が存在した。これはジンバブエでも同じ状況で、有色人種はいくら努力しても裕福になれないような国家システムだった(南アには、白人の中にも貧しい住民がけっこういるが)。1994年の民主化後、とりわけ有色人種の人々は、平等な経済チャンスが与えられると共に、彼らの家計と生活が改善することを期待したのだが、実際には、民主化後はますます貧富差が激しくなっているという。経済発展が著しいとされる南アフリカだが、増加する都市への人口流入や毎年の学校卒業者の数を考慮すると、就職先の数はかなり不足しており、失業率はたいへん高い。あるデータでは失業率が24.2%(CIA: World Factbook)となっているが、50%以上の数値を出す情報もある(Business Day: 9May08)。とくに移民襲撃が起きたインフォーマル住宅地では、失業率が80~90%とも言われ、南アフリカの失業問題の深刻さがうかがえる(Pretoria News 2008年6月17日)。経済発展の恩恵を受けているのは中~高所得の有職者だけで、失業者や低い給与を得ている者は、インフレが進むにつれ、生活は苦しくなるばかりである。激しい『貧富の差』を目の当たりにすることがほとんど無い現在の日本では、貧富差とはどのように存在し、そのような差のある社会でどのような生活が営まれているかピンと来ないかもしれない。私は南アにて、ジンバブエよりも貧富差がはげしい南アに驚いた。我が家の近くにあるインフォーマル住宅地の住民は、低所得者の中でもさらに貧しい住民であるが、彼らの生活状況は以下のように見て取れる。

住まい環境

我が家族は、プレトリア市郊外東の方にある、最近開発が進められている比較的新しい地区にある。市の東部は「プレトリア・イースト」と呼ばれ、このイーストには高級住宅街がとてもたくさんある。南アフリカは治安が悪いため、Security Estateといって、これは、大きな敷地をぐるっと壁(電気鉄条網つき)で囲み、その中にアパートや家を何軒も建築し、壁の中に入るには、警備員とセキュリティ・チェックのある門を通過する必要がある。規模は数軒・数棟の家屋を囲んだ小さなものから、大きな敷地付の家を数百軒かこんでしまう巨大なものまで、様々である。我が家の向かいのEstateはかなり高級の部類に入っていて、家は1億とか2億円のものがたくさんあり、敷地は公園みたいに大きく、馬を飼っている家主のために乗馬道が整備され、さらにヘリコプターの離陸・着陸・格納設備を備えた家まである。残念ながら、我が家は「高級住宅街の中にある、中所得者向けアパート」をたくさん囲んだSecurity Estateの、アパートのひとつに住んでいる。”Security Estate”の割に治安が悪く、昨年ここに住み始めてからすぐに、お隣さん数件に泥棒が入ったくらいノンキなSecurityレベルである。また、これがすごい欠陥住宅で、昨年我が家族が入居したときには新築だったのに、壁から水が漏れるわ、電気にショートが起きるわ、シャワーのホースが切れるわ、、、もっと色々書きたいのだが、本題にもどりましょう。もともと、この地区はプレトリア・イーストの端にあり、以前は農場が広がっていたところを、住宅地用に開発しているのだが、我が家のあるアパート群の両側に、大きな空き地が広がっている。昨年5月にここに引っ越したとき、車で空き地の横を通りかかると、高く茂った枯れ草の間にチラホラと、ビニールや木ぎれで作った小さな掘っ立て小屋がいくつか見えた。引越しを手伝ってくれていた夫の姉が「あなた達の住まいの隣にスクォッターがいるよー」と言った。南アで結婚し、ここに長く住む姉にとて、スクォッターは珍しくない存在であろう。しかしジンバブエからやって来た私と夫は驚いた。南アはとても豊かな国だと聞いていたのに、家の無い人々が大勢いることを知った。ジンバブエでは、景気の良かった80~90年代には、インフォーマル住宅とかスクォッターは少なかったものである。南アはよほど住宅不足なのだろうとか、仕事が無いのだろうとか夫と話し合ったが、掘っ立て小屋で住む人たちの隣で、安アパートとは言えど、一応きちんとした家に住むことができる私は、なんだか居心地がわるい気持ちがした。引越しした5月は、冬に入ったところでそれからどんどん寒くなる季節である。南アの冬は、乾燥して冷たい空気が体に染みて「しばれるー」ので、冬には分厚いコートを羽織っている人たちがほとんどだ。掘っ立て小屋ではかなり体にこたえるだろう。空き地には電気は通っていないから、料理はそこら辺から刈ってきた木を薪にして使っている。水道ももちろん無いから、近くの水道管の破裂した部分から水を汲んで使っている。

我が家の隣のインフォーマル住宅。手前がアパート群で、奥の空き地に点々と小さく見えるのがインフォーマル住宅。

仕事

そもそも、なぜこの空き地にインフォーマル住宅ができたのか。今年起きた移民襲撃の舞台となったインフォーマル住宅地は、低所得者住宅地に隣接したものも多かった。これらのインフォーマル住宅地は、低所得住宅地に住むことが出来ないほど低所得の住民の住まいである。一方、我が家の両側の空き地にあるインフォーマル住宅地は、高級住宅街のど真ん中にあり、人々は家が無いからここに住み始めたというのではなく、仕事を求めてスクォッターになったと推測される。この地区は新興住宅が次々に建設されている地区だから、工事現場での日雇い仕事がある。また、高所得者がたくさん住む地区だから、庭師や家屋の整備(掃除、ペンキ塗り、庭つくりなど)の仕事がある。どれも低賃金の仕事で、毎日仕事にありつく保証は無いのだが、失業して家にいるよりはましだろう。空き地の前の道路沿いには、毎日朝から夕方まで、20~30代と思われる男性たちがずらーっと座ったり立ったりしている。こうして待っていると、仕事をオファーする雇い主がたまに来るようだ。それにしても、賃金はかなり低いだろうと思う。日雇い仕事はもともとが低賃金である上、インフォーマル住宅の横にずらりと並んで一日中仕事を待つ求職者たちをみれば、雇用主の中には、さらに低い値段を提示する者がいるだろう。インフォーマルだから、「最低賃金」の概念など、あるわけがない。

増加する住民

息子が生まれて半年以上たち、私も頻繁に外出できるようになった頃には、空き地のインフォーマル住宅の数が目に見えて増加した。以前は草木の陰からチラッホラッとしか見えなかった掘っ立て小屋が、あそこにもここにも目だってくるようになった。道路際にたって仕事を待つ男たちの数が増えた。昨年中旬には、数人~10数人といった感じだったのだが、今は多いときでは100人近くいるようだ。さらに、以前は住民のほとんどが男性であったと思われるのだが、近頃は女性住民をしばしば見る。女性は仕事を求めて道路際に立つ事は無く、薪にする木を頭の上に積んだり押し車に乗せて、自分が住む空き地へと運んでいるのをしばしば見る。子供が大人と一緒にいるのを見たこともあるし、「家族連れができたね、、、」と、日々増加するインフォーマル住宅住民を確認する私と夫である。

ハード・ライフ vs 快適生活

インフォーマル住宅の真向かいには大きなショッピングモールがあって、近辺の高級住宅地から買い物客が毎日たくさん訪れる。モールには高価な衣類や家具のほか、スーパーマーケットも入っている。インフォーマル住宅から簡単に歩いていけるスーパーはこのモール内のものだから、インフォーマル住宅住民は、高所得者が数百~数千ラントをショッピングカートを山盛りにしながら瞬く間に使うのを見ながら、スーパーで必要最低限の買い物をしている。我が家の家計は大抵火の車だから大した買い物もしないのだが、彼らの買う物と比べればやはりたくさん買っている。彼らがモールから出て、空き地の掘っ立て小屋に帰っていくのを見たり、モールのすぐそばの水道管が破裂した部分で、彼らがさかんに水をくんでいたりするのを見ると、以前は「あー、こんなのダメだよね、、、」と心を痛めていたが、最近は慣れてしまってあまり何も思わなくなった。この「慣れ」が、南ア住民の間に浸透しているようで、高級車でインフォーマル住宅地の前を通り過ぎながら、彼らには目もくれない。すぐ近くに住んでいても、インフォーマル住宅地の住民と、周囲の住民の間には、越えられない大きな壁があって、お互いを「まったく別種の人間/生き物」としてみているようなものである。

インフォーマル住宅と道路を挟んであるショッピングモール(手前の大きな建物)。奥の住宅地は、ゴルフコース付のセキュリティ・エステイトで、この地区の高級住宅地のひとつ。手前に見える信号のたもとで、破裂した水道管からインフォーマル住宅住民が水を汲んでいたものだった。

立ち退きの危機

インフォーマル住宅は、政府や地主の許可なしに建設され、下水・排水設備が無いため、衛生状況が悪化するのはもちろん、所得の低い住民が犯罪に手を染めたり、土地が荒れていたり整備された道路などが無いため、追跡をかわすために犯罪者が逃げ込む格好のエリアとなる。そうなると、近所住民からは苦情があがり、警察がインフォーマル住宅に乗り込む。こうしてインフォーマル地区住民の強制立ち退きが各地で起きているが、昨年プレトリア市のとあるインフォーマル地区(これも我が家の近所だった、、、)では、警察が住民に乱暴したり、住民からお金を取り上げてしまったりして、問題になった。結局、教会関係のNGOが介入し、地区住民は立ち退きさせられても次に住む場所が無いのだからと裁判に持ち込み、地区住民は引き続き居住することができるようになった。当時、お金を取り上げられた住民は、苦労して貯めた数百ラントを取られたようだが、これは、彼らの生活費だけでなく、家族の元に送金するためのお金でもある。政府も近所住民も、だれもインフォーマル住宅地の住民のことをきちんとした人間として考えないのである。

最近は冷え込むせいか、インフォーマル住宅地付近では、山盛りの木の枝をワッセワッセと運ぶ女性たちを頻繁に見る。しかし、いくら火をたいても、掘っ立て小屋では寒いものは寒いし、そのうち木も周囲からなくなってしまうだろう。都市の住宅不足・仕事不足を解消するためにはどうしたらいいのかなと思う。アフリカ諸国では、仕事不足が深刻な課題だ。いくらよい教育制度を設けても、仕事が少なければみな海外に出てしまう。南アでも、ジンバブエでも、それが問題になっている。インフォーマル住宅地の住民は、国内外から出稼ぎのようにして来ている者が多いようだが、彼らに技術トレーニングを与えても、就職できるチャンスは少ないだろう。このように、経済的に最低レベルで生活する者がいるすぐそばで、高級車に乗って、数億円の家に暮らす住民がいる。南アには、日本人が見てもビックリするような高級車が「かなり」たくさん走っている。高級車の数の割合は、日本やその他先進国と比べても、南アはかなり高いのではないかと思う。なんでこんなに金持ちがいるのかと思うと同時に、なんでこんなに貧乏人もいるのかと思う。そして、互いを「まったく別の生き物」として見ることが、犯罪、殺人の多い社会をつくった背景にあるのではないかと思う。

今回は、高級住宅地と隣接するインフォーマル住宅地区について書こうとしていたのだが、全国新聞のIndependent News & Media社により、移民襲撃事件を分析する数ページに渡る付録記事(2008年6月17日、タイトル「Never Again!」)で、現在の南アに蔓延する貧困問題について分りやすいレポートが掲載されたので、ここにまとめておこうと思う。高級住宅地とインフォーマル住宅地に関するレポートは次回の予定!

Flames of Hate - Times, SA

南アの新聞写真家が撮影したゼノフォビア襲撃の模様(Times Multimedia)

Xenophobia(ゼノフォビア、外国人嫌悪)として世界中の新聞・テレビのニュースとなった今回の移民襲撃事件だが、実際には南ア人による南ア人を対象とした襲撃も存在し、襲撃により死亡した65人の中でも21人が南ア人なのである。ズールー語話者による、ツォンガ語話者、ヴェンダ語話者、ペディ語話者をねらった襲撃がひとつの例であるが、以前にも書いたように、この襲撃事件については、ゼノフォビアという言葉以上に注目されねばならない南アの社会問題・貧困が深く関係していると思われる。実際、南アには低所得住宅地から高級住宅地にいたるまで、あらゆる地区に全世界からの移民が暮らしているが、襲撃が起きたのはとくに、インフォーマル住宅地であり、ここには、低所得者向け住宅地に家を確保できない、さらに低所得の住民が暮らす。今回の移民襲撃を調査分析した南アフリカ政府の人文科学研究委員会(Human Science Research Council:HSRC)によれば、襲撃が起きた地区の住民を取り巻く環境には、以下のような特徴があった。

1.政府による公共事業運営能力の低さに対し、住民のあいだで不満がつのっている

2.政府による移民政策は、不正、汚職にまみれ、統制が利かない状態にあると住民が見なしている

3.住宅不足、また、若者(16歳~30歳)の間の失業率の高さが深刻な問題となっている

4.最近の燃料価格、食料品価格の高騰により、住民が苦境に立たされている

1.政府による公共事業・サービス運営能力に対する不信

HSRCによれば、今回襲撃が起きた地区は、公共事業・サービス運営能力の低さに対する抗議暴動がここ数年の間に起きた地区である。公共事業・サービスとは、住宅地・住宅整備、住宅配分、水道・電気・下水整備、ゴミ回収など、都市住民が生活するうえで必須のものだが、インフォーマル住宅地ではこれらのサービスが支給されなかったり、質が低かったりする。水道水を隣人と共有せねばならなかったり、35世帯が1つのトイレを共有している地区もある。インフォーマル住宅地であれば、そんなサービスが無くても当たり前、という感じもするかもしれないが、インフォーマルといっても1980年代から居住がはじまり、現在は数万人が住むという巨大なインフォーマル住宅地もある。更に、政府自身が、これらの住宅地住民に、適切な公共サービスの配給や合法な住宅の提供を、民主化以来ずっと約束している。民主化から10年以上たち、近年は中高所得者が好景気の恩恵を受ける南アで、なぜ我々の住宅地には何の改善ももたらさられないのかと、住民の間で不満が募るのである。また、ただでさえ公共サービスが不足しているインフォーマル住宅地区で、次々と流入する外国人移民や国内からの出稼ぎ移民とサービスを共有しなければならない南ア住民が、移民に対する嫌悪をいだく状況は理解できる。

2.移民政策に対する不信

アフリカ大陸の経済大国のひとつである南アには、ビジネス・就職・就学のチャンスを求めてやってくる移民が世界各国から大勢やってくる。南ア国家公務員は、一般的に比較的低賃金であるし、マネージメント力が弱く、職員トレーニングレベルも低いようだが、特に内務省の状況は南ア政府自身から非難されるほどマネージメントがメチャクチャになっているらしいのだが、移民に関しては、賄賂で滞在ビザやパーミットを発行したり、外国移民であっても南ア人向けの住宅があてがわれたりといったケースが出ている。また、ごく最近まで、南ア政府は現在のジンバブエ状況について基本的に不干渉であり、ジンバブエでは何も悪いことは起きていないがごとくの態度を南ア国民に示していたのだが、その一方で、難を逃れて流入するジンバブエ人移民が近所にどんどん住み始めるという現状を目の当たりにしたインフォーマル住宅地区住民が、政府の移民政策に混乱した印象と不信をいだくのは当然である。また、南ア政府がジンバブエはOKだといっているのに、なぜジンバブエ人たちは我々の住まいに侵入してくるのか、ジンバブエに帰れ!という気持ちが南ア住民にあるに違いない。

3.住宅不足、若者の失業

低所得者向け住宅が極度に不足している南アである。民主化後の1994年以来、住宅政策により200万人以上が住宅を獲得することができたが、まだ220万件の住宅申請が未処理であり、2005/6のデータでは、南ア国内の1245万世帯のうち、320万世帯がインフォーマル住宅に住んでいるという。こうしたインフォーマル住宅地区では、失業率が異常に高く、80%~90%は職が無く、その中には20~30代の若者も多くいる。こうしたところへ移民が流入しているのだが、移民もまた若者世代が多く、若者と若者のあいだの衝突という性格も今回の襲撃事件には見られるという。日ごろから失業率が高い地区に移民が流入すれば仕事のとりあいになるのは当然である。彼らの仕事とは、日雇いの低賃金職がたまに見つかるといった状況なのだが、南ア人雇用者は、より低い給料で雇うことができる外国移民を優先して雇用する傾向があるため(外国移民は通常より低いレートでも働く)、移民は生活を脅かす存在として、南ア住民に見なされてもおかしくないのである。

4.燃料価格、食料品価格の高騰

最近の燃料・食糧価格のインフレは、所得の高低を問わずに南アの全世帯に影響を与えているが、インフレ前でもほとんどの収入を食費や交通費にあててきた低所得者にとって大打撃である。低所得者の中でも年金くらいしか収入源の無い老人たちは、インフレによって多大な打撃を受けている。下表はプレトリア市の低所得者向け住宅地に住む老人たちの月の出費である。食糧雑貨費は夫婦が400ラント(5364円)、5人の孫を育てる独身女性が300ラント(4023円)費やしているが、この額ではほんとうに基本的な物(主食、肉、野菜、洗剤など)を必要最低限の量しか買えない。とくに、孫を育てる女性に関しては、2人の孫の教育費(1年にR580)も支払わなくてはならない。南アは物価が比較的高く、日本と同じくらいの値段かもっと高値で販売される日用品も多いからである。そして、この表にある老人たちは、きちんとした公式住宅地に住んでいてこの状況であり、これがインフォーマル住宅住民となれば、年金ほどの一定収入もなく、生活はもっと苦しい状況に陥る可能性がある。

低所得老人の月の出費(Pretoria News 2008年6月17日)

R=南アフリカラント。2008年6月22日の交換レート:1ラント=13.4円

夫婦 独身女性(70歳)。孫5人を育てる。
収入源:夫の年金R2000 収入源:年金R940、くず鉄・空瓶収集による収入
食糧雑貨:R400ディーゼル:R400電気:R200

市への支払い:R200~R400

自動車保険 R400

医薬品 R500

食糧雑貨:R300牛乳とパン:R50電気:R100

教会の10分の1税:R100

合計 R2300 合計 R550

本日6月23日のPretoria Newsは、「プレトリア市郊外のインフォーマル住宅地住民が『政府が住宅を供給しないなら、土地を占拠する』と宣言を出したと報告。現在南アは冬である。南ア各地の冬はけっこう厳しく、こちらにやって来た外国人がたいてい驚く。分厚いコートや毛布や強いヒーターが必要なのである。だから、インフォーマル住宅地の掘っ立て小屋で過ごす冬はものすごく厳しいことが想像できる。また、このような寒さがある南アは、温かい国々でみられるように、安い食べ物がたくさんあるぞ!といった雰囲気ではなく、なんでもキッチリお金を出して買わなくてはいけない、それもあまり安く無い、という雰囲気がある。この上さらに、仕事が無い、収入が無い、家が無い、物価は上がる、といった状況は耐え難い。さらに、ストレスレベルをあげる原因のひとつとして、掘っ立て小屋住民の前をゆうゆうと高級車で通り過ぎる中~高所得者たちがいるだろう。高所得者の中には、120万ラント(1600万円)が毎月の出費だと言う人もいて私はびっくりしたが、次回は、高級住宅街の間の野原にあるインフォーマル住宅のようすと、それと対照的な高所得者の生活について書いてみたい。

移民襲撃に加わる南ア青年。イーストラント地区のインフォーマル住宅地。

移民襲撃に加わる南ア青年。イーストラント地区のインフォーマル住宅地。

(Pretoria News 2008年6月17日)